心不全とは?原因・症状・検査・治療を循環器専門医が解説|福岡市早良区
「最近、階段を上るだけで息が切れる」「足がむくむ」といった症状にお悩みではありませんか。これらの症状は、年齢のせいではなく「心不全」の初期サインかもしれません。
心不全は、決して一部の特別な人だけがなる病気ではありません。日本では高齢化に伴って患者数の増加が見込まれており、2030年には約130万人に達するとの予測があります[4]。こうした増加は「心不全パンデミック」と呼ばれています。
本記事では、日本循環器学会・日本心不全学会の『2025年改訂版 心不全診療ガイドライン』を基本とし、2026年の欧州心臓病学会(ESC)ガイドラインによる分類変更も踏まえて、心不全の定義、初期症状、原因、検査、治療法を循環器専門医の視点で解説します[1][3]。
また、当院が力を入れている「心臓病治療アップデート外来」についてもご紹介します。
【この記事の要点】
・心不全は、心臓の働きが低下し、息切れ・むくみ・疲れやすさなどが現れる状態です。
・「以前より階段で息切れする」「数日で体重が増えた」「横になると苦しい」は早めに相談したいサインです。
・安静時の強い息苦しさ、ピンク色の泡状の痰、意識がもうろうとする場合は、救急要請が必要です。
・診断には問診、診察、BNP、心電図、胸部X線、心エコーなどを組み合わせます。
この記事を書いた医師
うらマイハートクリニック院長 浦 祐次郎
(循環器専門医・総合内科専門医・TAVI実施医/指導医・心血管インターベンション治療学会認定医・SHD心エコー図認証医・心臓リハビリテーション指導士)
循環器専門医院長 浦 祐次郎から一言見逃されやすいポイントですが、実際の診療では「年齢のせいだと思っていた」「運動不足だと思っていた」とおっしゃる方が非常に多く、中には日常生活に支障が出るまで気づかなかったというケースも少なくありません。 しかし、詳しく検査をすると、すでに心不全が進行しているケースも多々あります。 特に「以前より明らかに息切れしやすくなった」という変化は、重要なサインです。
心不全とは?定義と心臓で起きていること
心不全は一つの病名ではなく、心臓の構造や働きの異常によって息切れやむくみなどが現れる症候群です。日本循環器学会および日本心不全学会が一般向けに発表している定義では、以下のように説明されています。
『心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です[2]。』
さらに、2025年改訂版 心不全診療ガイドラインでは、国際的な定義に基づき、医学的には次のような状態として説明されています。
『心臓の構造や働きの異常によって、肺や全身のうっ血、心臓から送り出す血液量の低下などをきたし、息切れ、むくみ、倦怠感、運動能力の低下が現れる症候群です[1]。』
つまり、心臓が血液を送り出したり受け入れたりする働きが低下すると、全身に必要な血液を十分に届けにくくなり、同時に肺や全身に血液が滞る「うっ血」が起こります。その結果、肺や足に水分がたまり、息切れや足のむくみが現れます。
心臓の働きが低下した状態が続くと、日常生活に必要な血流を保ちにくくなり、息切れやむくみなど、さまざまな症状につながります。
弱った心臓を無理に頑張らせた結果、やがて心臓がバテてしまう――これが、息切れやむくみといった様々な症状の原因となります。
心不全は「病名」というよりも、さまざまな心臓病が最終的にたどり着く「状態」です。狭心症・心筋梗塞、高血圧、弁膜症、不整脈など、原因となる病気は多岐にわたります。つまり、心臓に負担をかけるあらゆる病気が、進行すれば心不全につながる可能性があるのです。
心不全の疫学|増え続ける「心不全パンデミック」
慢性心不全を含む患者総数を正確に把握することは容易ではありませんが、国内研究では2030年に約130万人に達すると予測されています[4]。この患者増加は「心不全パンデミック」と呼ばれ、循環器医療における重要な課題の一つです。
心不全は悪化と改善を繰り返しやすく、5年生存率は約50%と報告されています[2]。ただし、早期に発見して適切な治療を始めれば、心臓への負担を軽減し、生活の質(QOL)を保ちながら長く付き合っていくことが可能です。
心不全の種類|左室駆出率(LVEF)による分類と日欧の違い
心不全は、心臓が血液を送り出す割合を示す左室駆出率(LVEF)などに基づいて分類されます。日本のJCS/JHFS 2025ガイドラインでは、HFrEF、HFmrEF、HFpEFなどに分類します[1]。
| 分類 | 正式名称 | 特徴 | 左室駆出率(LVEF) |
|---|---|---|---|
| LVEFが低下 | HFrEF(ヘフレフ) | 心臓の収縮する力が低下したタイプ。心筋梗塞後や拡張型心筋症などにみられる | LVEF 40%以下 |
| LVEFが軽度低下 | HFmrEF(ヘフマーレフ) | HFrEFとHFpEFの中間に位置するタイプ | LVEF 41〜49% |
| LVEFが保たれる | HFpEF(ヘフペフ) | LVEFは保たれていても、心臓が広がりにくいなどの異常があるタイプ。高齢者や高血圧・肥満・糖尿病のある方に多い | LVEF 50%以上 |
なお、2026年ESCガイドラインでは、HFmrEFを独立したカテゴリーから廃止し、LVEF 50%未満をHFrEF、50%以上をHFpEFとする2分類に整理されました[3]。日本のJCS/JHFS 2025分類とは境界が異なるため、本記事では国内診療に合わせて上表の分類を基本とします。
左室駆出率(LVEF)とは、心臓が1回の拍動で左心室から送り出す血液の割合で、心臓の収縮機能を評価する基本的な指標です。正常値は一般におおむね55〜70%ですが、LVEFが保たれていても心不全を発症することがあります。
左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)は、高齢者や高血圧・肥満・糖尿病のある方に多いタイプです。LVEFが正常範囲に見えても、心臓が十分に広がりにくいなどの異常があるため、一般的な健康診断だけでは見つかりにくいことがあります。「検査では異常なしと言われたのに息切れがする」という方では、このタイプも含めて詳しく調べます。
心不全のステージ分類(A〜D)
心不全は、長い時間をかけて進行する場合があります。日本のJCS/JHFS 2025ガイドラインでは、心不全の進行度をAからDの4段階に分類しています[1]。ステージAとBはまだ心不全症状のない予防段階であり、危険因子や心臓の異常を早く見つけて進行を防ぐことが重要です。ESC 2026でも同様にA〜Dのステージ分類が採用され、予防と早期介入が重視されています[3]。
| ステージ | 状態 | 具体例 |
|---|---|---|
| A(リスクあり) | 心不全の危険因子はあるが、心臓の構造・機能に異常なし | 高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満などがある方 |
| B(前心不全) | 心臓の構造や機能に異常があるが、心不全の症状はなし | 心肥大、弁膜症、過去の心筋梗塞があるが無症状の方 |
| C(心不全) | 心臓の異常があり、現在または過去に心不全の症状がある | 息切れ、むくみ、倦怠感などの症状が出ている方 |
| D(進行した心不全) | 適切な治療を行っても強い症状が続く進行した心不全 | 繰り返す入院、安静時にも症状がある方 |
生活習慣病をお持ちの方は、自覚症状がなくてもすでにステージAに該当している可能性があります。「ドミノ倒し」のように、生活習慣の乱れ→高血圧・糖尿病・脂質異常症→動脈硬化→心臓病→心不全と、気づかないうちに進行していくのが心不全の怖さです。
2025年のガイドライン改訂では、慢性腎臓病(CKD)がステージAのリスク因子として明記されました[1]。腎機能が低下している方では、症状がなくても早期からの予防と管理が大切です。健康診断で「腎機能がやや低下しています」と言われたことがある方は、心臓の状態も確認しましょう。当院では循環器内科と腎臓内科の医師が連携し、心臓と腎臓をあわせて評価できます。
心不全の症状|初期の見逃しやすいサインから重症まで
心不全の症状は、心臓のポンプ機能がどの程度低下しているかによって大きく異なります。初期には「年齢のせい」「ただの運動不足」と勘違いされやすい軽い症状から始まり、進行するにつれて日常生活に支障をきたすようになります。
初期症状(見逃されやすいサイン)
心不全の初期症状は、加齢による体力低下と区別がつきにくいのが特徴です。以下のような症状が続く場合は、心不全の可能性を考える必要があります。
| 症状 | 具体的な自覚 | なぜ起こるのか |
|---|---|---|
| 労作時の息切れ | 以前は平気だった階段や坂道で息が上がる | 心臓のポンプ機能低下により、運動時に必要な酸素を十分に届けられなくなるため |
| 足のむくみ(浮腫) | 夕方に靴がきつくなる、靴下の跡がくっきり残る | 血液の循環が悪くなり、下半身に水分が溜まりやすくなるため |
| 体重の急な増加 | 数日で2〜3kg増える | 体内に水分が貯留しているサイン。心不全の増悪を示す重要な指標 |
| 夜間頻尿 | 夜中に何度もトイレに起きる | 日中は重力で下半身に溜まっていた水分が、横になると心臓に戻り、腎臓で処理されるため |
| 倦怠感・疲労感 | 何をするにも億劫、すぐに疲れる | 全身の筋肉や臓器への血流が慢性的に不足するため |
特に「以前と比べて明らかに体力が落ちた」と感じる場合は、単なる加齢ではなく心不全が隠れている可能性があります。
進行・重症化のサイン|こんな症状は緊急受診を
心不全が進行すると、安静にしていても症状が出ることがあります。以下の症状が急に現れた場合は、心不全が急激に悪化している可能性があります。ためらわず救急要請してください。
| 症状 | 具体的な状態 |
|---|---|
| 安静時の呼吸困難 | じっとしていても息苦しい |
| 起坐呼吸(きざこきゅう) | 横になると息苦しくなり、上体を起こすと楽になる |
| 夜間発作性呼吸困難 | 就寝後1〜2時間で激しい息苦しさで目が覚める |
| ピンク色の泡沫状の痰 | 肺に水分がたまる肺水腫のサイン。直ちに救急要請が必要 |
| 意識がもうろうとする | 心臓から脳への血流が著しく低下している状態 |
| チアノーゼ | 唇や爪が紫色になる。血液中の酸素が著しく不足している |
息切れが徐々に強くなり、夜中に咳や息苦しさで眠れない場合は、肺に水分がたまる肺うっ血が進んでいる可能性があります。早急な受診が必要です。
心不全の原因|なりやすい病気と生活習慣
心不全は単独で発症する病気ではなく、さまざまな心臓病や全身疾患の結果として起こります。「何らかの原因」で心臓に負担がかかり続けた結果、ポンプ機能が限界を迎えた状態が心不全です。
主な原因となる病気
| 原因疾患 | 心不全との関係 | 補足 |
|---|---|---|
| 虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞) | 冠動脈(心臓自身に栄養を送る血管)が動脈硬化で狭くなったり詰まったりすることで、心筋が酸素不足に陥り、ポンプ機能が低下する | 代表的な原因の一つ |
| 高血圧性心疾患 | 長年の高血圧により心臓が常に強い力で血液を押し出さなければならず、心筋が厚く硬くなる(心肥大)。やがて心臓が疲弊する | 高齢者でも重要な原因 |
| 弁膜症 | 心臓の弁(血液の逆流を防ぐ扉)が正常に開閉しなくなり、心臓に余分な負担がかかる | 加齢とともに増加 |
| 心筋症 | 心筋そのものが変性し、ポンプ機能が低下する。拡張型心筋症、肥大型心筋症などがある | 若い方でも原因となる |
| 不整脈(特に心房細動) | 心臓のリズムが乱れることで、効率的な血液の拍出ができなくなる | 心不全の原因にも悪化のきっかけにもなる |
心臓と腎臓の深い関係「心腎連関」とは
心不全を理解する上で欠かせないのが、「心腎連関(しんじんれんかん)」という考え方です。日本腎臓学会の『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2024』でも、慢性腎臓病(CKD)と心血管疾患(CVD)は互いに密接に関係すると説明されています[5]。
心臓の働きが落ちて心不全になると、腎臓へ送られる血液量が減少し、腎機能が低下します(慢性腎臓病の進行)。逆に、腎臓の働きが落ちると、体内の余分な水分や塩分を尿として排出できなくなり、血液量が増加して心臓に大きな負担をかけ、心不全を悪化させます。
この「負のスパイラル」を抑えるためには、心臓と腎臓をあわせて治療・管理することが重要です。ナトリウム・グルコース共輸送体2阻害薬(SGLT2阻害薬)は、病状に応じて心不全と慢性腎臓病の双方に用いられる重要な治療選択肢の一つです[1][5]。
生活習慣との関係
心不全の原因となる病気の多くは、生活習慣と深く関わっています。高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満、喫煙――これらのリスク因子が「ドミノ倒し」のように連鎖し、動脈硬化を進行させ、最終的に心不全へとつながります。
まずは自分がこれらの危険因子を持っているのかどうかを知ることが大切です。特に以下の生活習慣は心不全のリスクを高めます。
- 過剰な塩分摂取:血圧を上昇させ、心臓への負担を増大させる
- 運動不足:心肺機能の低下、肥満、糖尿病のリスク増加につながる
- 喫煙:血管を収縮させて動脈硬化を促進し、心筋梗塞や心不全のリスクを高める
- 過度の飲酒:アルコール性心筋症の原因となる
- 肥満:心臓への負荷が増大し、高血圧・糖尿病を合併しやすい
高齢者で増える理由
心不全は加齢とともに増加します。高齢者では高血圧、弁膜症、心房細動、慢性腎臓病などを複数抱えることが多く、心不全を発症しやすくなります。
高齢者で心不全が増える主な理由は、加齢に伴う心臓の構造的・機能的変化です。心筋の線維化(心筋が硬くなること)が進み、心臓の「拡がる力」が低下します。これが先述した拡張不全(HFpEF)の増加につながっています。また、高血圧や弁膜症など心不全の原因疾患そのものが加齢とともに増加することも大きな要因です。
日本は世界でも類を見ない超高齢社会であり、心不全パンデミックへの対策は国家的な課題です。「年のせい」と放置せず、早期に循環器専門医の診察を受けることが重要です。
心不全の検査・診断|BNP・心エコー・NYHA分類
心不全が疑われる場合、問診・身体診察に加えて、複数の検査を組み合わせて総合的に診断します。
診断の流れ(初診〜確定診断まで)
心不全の診断は、以下の流れで進みます。
- 問診:息切れ、むくみ、体重変化などの症状の聞き取り。既往歴(高血圧、糖尿病、心筋梗塞など)の確認
- 身体診察:聴診(心雑音、肺の水泡音の有無)、頸静脈の怒張、下肢のむくみの確認
- 血液検査:BNPなどの測定(心不全の可能性を調べる)
- 画像検査:胸部X線、心エコー検査で心臓の構造と機能を評価
- 追加検査:必要に応じて心電図、心臓CT(冠動脈CT)などを実施
- 確定診断:上記の結果を総合し、心不全の有無・原因・重症度を判定
主な検査(BNP・心電図・胸部X線・心エコーなど)
| 検査名 | 何がわかるか | 特徴 |
|---|---|---|
| BNP/NT-proBNP(血液検査) | 心臓への負担の程度。心不全の可能性や重症度を調べる手がかり | 日本心不全学会のステートメント[6]では、BNP 100pg/mL以上、NT-proBNP 300pg/mL以上で心不全の可能性が高いとされる。当院では即日測定が可能 |
| 心エコー検査(心臓超音波検査) | 心臓の大きさ、壁の動き、弁の状態、駆出率(EF)。心不全の原因特定に不可欠 | 被ばくなし、痛みなし。最も重要な検査の一つ |
| 胸部X線検査 | 心臓の大きさ(心拡大の有無)、肺うっ血の有無 | 簡便で迅速。心不全の初期評価に有用 |
| 心電図検査 | 不整脈、心筋梗塞の痕跡、心肥大の有無 | 短時間で実施可能。心不全の原因検索に重要 |
| 心臓CT(冠動脈CT)検査 | 冠動脈の狭窄・閉塞の有無。虚血性心疾患の診断に有用 | 当院では64列マルチスライスCT(FUJIFILM SCENARIA View)を導入。医師が必要と判断した場合に院内で撮影可能 |
NYHA心機能分類(自覚症状による重症度評価)
心不全の重症度を評価する方法の一つが、自覚症状に基づくニューヨーク心臓協会(NYHA)心機能分類です。日常生活でどの程度の活動により症状が出るかによって、I度からIV度に分類されます。
| NYHA分類 | 自覚症状 |
|---|---|
| I度 | 日常生活で症状なし。通常の身体活動では疲労、動悸、息切れは起こらない |
| II度 | 安静時は無症状。通常の身体活動(階段昇降、坂道歩行など)で疲労、動悸、息切れが出る |
| III度 | 安静時は無症状だが、通常以下の身体活動(平地歩行、着替えなど)で症状が出る |
| IV度 | 安静時にも症状がある。わずかな身体活動でも症状が増悪する |
血液検査(BNP)による重症度評価
心不全の診断で重要な血液検査の一つが、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)またはN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)の測定です。これらは心臓への負担が増えると上昇し、心不全の可能性や重症度を知る手がかりになります。
日本心不全学会のステートメントでは、以下の目安が示されています。ただし、値は腎機能、年齢、肥満、心房細動などの影響を受けるため、数値だけで診断せず、症状や心エコー検査などとあわせて判断します[6]。
| BNP値 | 解釈 |
|---|---|
| BNP 35pg/mL未満 | 心不全の可能性は低いが、症状がある場合は数値だけで除外しない |
| BNP 35〜100pg/mL | 前心不全または心不全の可能性があり、症状や危険因子に応じて追加検査を検討 |
| BNP 100pg/mL以上 | 心不全の可能性が高く、心エコー検査などによる評価が必要 |
当院の強み:BNPを含む血液検査を院内で迅速に行い、受診当日に結果をご説明できます。検査結果や症状を総合して、必要な追加検査や治療方針をご案内します。
冠動脈CTによる原因精査
心不全の原因が狭心症や心筋梗塞(虚血性心疾患)である疑いがある場合、心臓の血管(冠動脈)が狭くなっていないかを調べる必要があります。
当院には64列CTを導入しており、医師が必要と判断した場合には院内で冠動脈CTを撮影できます。患者さんの通院負担を抑えながら、速やかな診断と治療方針の検討につなげます。
心不全の治療|薬物療法から心臓リハビリテーションまで
心不全の治療は、原因となる病気の治療と、心不全そのものに対する治療の両面から行います。近年、新しい薬剤の登場により治療成績は大きく向上しています。
循環器専門医院長 浦 祐次郎から一言心不全の治療はここ数年で大きく進歩しており、適切な薬剤を組み合わせることで、以前よりも良好な状態を維持できるようになっています。私自身の診療でも、治療を見直すことで「階段で息切れしていた方が日常生活に支障がなくなる」ケースを多く経験しています。 一方で、古い治療のまま長年継続されているケースも少なくありません。現在の状態に合った治療に見直すことが、症状の改善や再発予防につながる重要なポイントです。
薬物療法
JCS/JHFS 2025ガイドラインでは、左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)に対し、①レニン・アンジオテンシン系阻害薬、②β遮断薬、③ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、④SGLT2阻害薬の4系統を基本とし、血圧、腎機能、副作用などを確認しながら、できるだけ早期に導入・調整することが推奨されています[1]。
| 薬剤クラス | 代表的な薬剤名 | 作用・効果 |
|---|---|---|
| レニン・アンジオテンシン系阻害薬(ARNI/ACE阻害薬/ARB) | サクビトリル/バルサルタン、ACE阻害薬、ARB | 血圧や腎機能などを確認しながら選択し、心臓への負担を軽減する |
| β遮断薬 | カルベジロール、ビソプロロール | 心拍数を抑え、心臓を「休ませる」ことで心機能を回復させる |
| ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA) | スピロノラクトン、エプレレノン | 心臓の線維化を抑制し、利尿作用で体液量を調整する |
| ナトリウム・グルコース共輸送体2阻害薬(SGLT2阻害薬) | ダパグリフロジン(フォシーガ®)、エンパグリフロジン(ジャディアンス®) | 糖尿病がないHFrEFでも用いられ、心不全による入院などのリスクを減らす |
フィネレノンという新しい選択肢
フィネレノンは、従来のスピロノラクトンやエプレレノンとは構造が異なる非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)です。FINEARTS-HF試験では、左室駆出率(LVEF)40%以上の症候性心不全で、心不全の悪化を減らす効果が示されました[9]。日本では2025年12月、標準的な治療を受けている慢性心不全のうち、LVEFが保たれた、または軽度低下した患者さんに対する効能・効果が追加承認されています[10]。JCS/JHFS 2025およびESC 2026でも、LVEFが保たれたタイプの症候性心不全に対する治療選択肢として位置づけられています[1][3]。高カリウム血症や腎機能低下に注意が必要なため、血液検査でカリウム値と腎機能を確認しながら使用します[10]。
これらに加え、うっ血による息切れやむくみがある場合には、利尿薬(フロセミド、トルバプタンなど)を用います。また、肥満症を伴うLVEF 45%以上の心不全では、肥満症としての適応条件を満たす場合にセマグルチドなどの使用を検討することがあります[1]。薬は自己判断で中止せず、変更や減量は必ず主治医に相談してください。
当院の心臓病治療アップデート外来
心不全の治療薬は近年進歩しています。一方、治療開始後に心機能、血圧、腎機能や体液量が変化し、現在の状態に合わせた薬の見直しが必要になることがあります。
例えばHFrEFでは、状態に応じてアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)への切り替えや、糖尿病の有無にかかわらないSGLT2阻害薬の導入を検討します。ただし、すべての患者さんに同じ薬が適するわけではなく、血圧、腎機能、脱水、感染症などを確認しながら個別に判断します[1]。
当院では、「心臓病治療アップデート外来」を開設しています。循環器専門医が現在の処方内容を一つひとつ確認し、JCS/JHFS 2025ガイドラインなどの最新知見を踏まえて、患者さん一人ひとりの状態に合わせた治療の最適化を行います。
- 心不全と診断され、何年も同じ薬を飲み続けている方
- 最新の治療を受けられているか不安な方
- 高血圧や糖尿病があるのに心臓の検査を一度も受けたことがない方
- セカンドオピニオンとして、現在の治療方針について専門医の意見を聞きたい方
上記に該当する方は、ぜひご相談ください。
非薬物療法(生活習慣改善)
薬物療法と並んで重要なのが、日常生活の管理です。塩分のとりすぎは体内に水分をため、心不全を悪化させる原因になります。病状や栄養状態に応じて1日6g未満を目安とすることがありますが、具体的な目標は主治医や管理栄養士と相談して決めます。
- 塩分管理:病状に応じて1日6g未満を目安とすることがある。加工食品や外食の塩分に注意し、麺類は汁を残すと塩分摂取量を減らせる
- 水分管理:水分制限が必要かどうかと具体的な量は、病状、腎機能、薬の内容によって異なるため、主治医の指示に従う
- 体重管理:毎日同じ条件で体重を測定し、2〜3日で2kg以上の増加があれば医療機関に連絡する
- 禁煙:喫煙は心不全の増悪因子。完全な禁煙が必要
重症例の治療(入院・デバイス治療など)
薬物療法で十分な改善が得られない重症心不全に対しては、以下のような治療選択肢があります。
| 治療法 | 適応 | 概要 |
|---|---|---|
| 心臓再同期療法(CRT) | 左脚ブロックを伴う重症心不全 | 特殊なペースメーカーで左右の心室の収縮タイミングを同期させ、ポンプ効率を改善する |
| 植込み型除細動器(ICD) | 致死的不整脈のリスクが高い心不全 | 危険な不整脈を自動的に検知し、電気ショックで正常なリズムに戻す |
| 左室補助人工心臓(LVAD) | 治療を尽くしても重い症状が続く進行した心不全 | 体内に埋め込んだポンプで血液循環を補助する。心臓移植までの橋渡しや長期治療として用いる |
| 心臓移植 | 他の治療法では救命できない末期心不全 | 日本ではドナー不足が続いており、待機期間が長いことが課題 |
これらの高度な治療が必要な場合は、専門医療機関と緊密に連携し、最適な治療方針を決定します。
心臓リハビリテーション
安定した心不全では、医療者の管理下で行う適切な運動療法(心臓リハビリテーション)により、運動能力や生活の質(QOL)の改善が期待できます[1][7]。ただし、急に悪化している時や安静時にも症状がある時は、運動を控えて医師の判断を受ける必要があります。
大規模臨床試験のHF-ACTION試験では、運動能力や健康状態の改善が示されました。運動療法は薬物療法の代わりではなく、病状に合わせて組み合わせる治療です[8]。
心臓リハビリテーション(心リハ)では、心電図、胸部X線、心エコー検査などの結果と、症状や体力を総合して安全な運動強度を設定します。当院では医師と専任看護師が連携し、運動療法と体重・血圧の確認、生活上の注意点の説明などを行います。
当院では、専用の心臓リハビリ室「ReHeart Gym」を備え、スタッフの見守りのもとで運動療法を行います。薬物療法に運動療法を組み合わせ、定期的に体調や体重、血圧などを確認することで、心不全悪化の変化に早く気づけるよう支援します。
心不全の予防と再発防止|日常生活でできること
心不全は、一度発症すると完全に治すことが難しい病気です。しかし、適切な自己管理を続けることで、症状をコントロールし、再発(増悪)を防ぐことは十分に可能です。
日常生活での注意点
心不全と上手に付き合うための基本は、「4つの自己管理」です。
- 毎日の体重測定:朝起きてトイレに行った後など、同じ条件で測定する。2〜3日で2kg以上増えた場合や、主治医から指示された増加幅を超えた場合は医療機関に連絡する。
- 塩分管理:病状に応じた目標を主治医や管理栄養士と相談する。加工食品や外食は塩分が多いため注意する。
- 適度な運動:主治医の指示のもと、ウォーキングなどの有酸素運動を継続する。心リハで学んだ運動を自宅でも実践する。
- 確実な服薬:処方された薬を毎日欠かさず服用する。自己判断での中止や減量は絶対に避ける。
再発を防ぐポイント(体重・塩分管理)
心不全で入院した患者さんの約25〜30%が退院後1年以内に再入院すると報告されています[1]。再発を防ぐには、服薬に加えて体重や塩分の管理が重要です。心不全が悪化する際には、体内への水分貯留による体重増加が早期のサインの一つになります。
退院後は、加工食品や外食などから知らないうちに塩分摂取量が増えることがあります。塩分のとりすぎは体液貯留を招き、再入院の原因となるため、無理なく続けられる方法を医療者と相談しましょう。
また、感染症(特にインフルエンザや肺炎)も心不全悪化のきっかけになります。インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンについて、年齢や接種歴に応じて主治医に相談しましょう[1]。
定期通院の重要性
心不全は慢性疾患であり、症状が安定していても定期的な通院が不可欠です。定期的な診察では、自覚症状の変化、体重の推移、BNP値の変動、心エコーによる心機能の評価などを行い、薬の調整や生活指導を継続します。
「調子が良いから」と通院を中断すると、気づかないうちに心不全が進行し、突然の増悪で救急搬送されるケースが少なくありません。臓器のバランスが崩れて悪循環に陥る前に、定期的なチェックで早期に変化を捉えることが大切です。
このような症状があればご相談ください
受診の目安|早めの相談が大切なケース
循環器専門医院長 浦 祐次郎から一言心不全は「もう少し様子を見よう」と考えている間に悪化してしまうことが多い病気です。 実際に、「もっと早く受診していれば入院せずに済んだかもしれない」と振り返られる方も少なくありません。2〜3日で2kg以上の体重増加や息切れの悪化といった小さな変化が重要なサインであることも多いため、「まだ大丈夫」と思っている段階での受診が重要です。
以下のような症状や状態に心当たりがある方は、心不全の可能性を含め、循環器専門医への相談をお勧めします。
- 階段や坂道で以前より息切れがひどくなった
- 足のすねを押すとへこみが戻らない(むくみ)
- ここ数日で急に体重が増えた
- 夜中に息苦しくて目が覚める
- 横になると苦しく、枕を高くしないと眠れない
- 健康診断で心電図異常や「心胸郭比の拡大(心拡大)」を指摘された
- 健康診断で「腎機能の低下」や「推算糸球体濾過量(eGFR)の低下」を指摘された
- 心不全と診断されているが、何年も同じ薬のまま治療を受けている
「こんな症状で受診していいのかな」と迷われる方もいらっしゃいますが、早期発見・早期治療こそが心不全の予後を大きく左右します。どんな些細な症状でも、お気軽にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
A
心不全の原因によっては、治療により心機能が大幅に改善する場合があります。ただし、多くの場合は慢性的な経過をたどるため、「治す」というよりも「上手にコントロールする」ことが目標となります。適切な薬物療法と生活管理を続けることで、症状を安定させ、日常生活を維持することは十分に可能です。
A
原則として、心不全の薬は長期にわたって服用を続ける必要があります。症状が改善しても、薬を自己判断で中止すると心不全が急激に悪化する危険があります。薬の変更や減量は、必ず主治医と相談の上で行ってください。
A
最も重要なのは、心不全の原因となる生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症)の予防と適切な管理です。塩分を控えた食事、適度な運動、禁煙、適正体重の維持を心がけてください。すでに生活習慣病がある方は、きちんと治療を受けることが心不全の予防につながります。
福岡市で心不全の診療なら|うらマイハートクリニックの特徴
当院の診療体制
うらマイハートクリニック(福岡市早良区藤崎・原)は、内科・循環器内科・腎臓内科・呼吸器内科を診療し、心臓リハビリテーションにも対応するクリニックです。
院長(浦 祐次郎)は、循環器専門医・総合内科専門医・TAVI実施医/指導医・心血管インターベンション治療学会認定医・SHD心エコー図認証医・心臓リハビリテーション指導士として、九州医療センターで13年間、小倉記念病院で約2年間にわたり、重症心疾患の診療に従事してきました。副院長の浦 雅紀子は腎臓内科医として、福岡山王病院で約5年間、九州医療センターで6年間にわたり、心腎連関を踏まえた包括的な腎臓病診療に従事してきました。
現在はうらマイハートクリニックにて内科医2名体制で待ち時間を短縮し、円滑な診療に努めています。
当院の検査・治療体制と継続フォロー
- 院内での迅速な検査体制:BNPなど含む当日結果のわかる多様な血液検査、心臓を含む各種エコー検査、総合病院レベルの64列CT(冠動脈CT含む)に対応。
- 治療後のサポート:心臓リハビリ施設「ReHeart Gym」で専門スタッフが体力回復を支援。
- 通いやすい診療体制:診療開始は8時30分から、水曜は20時まで診療。駐車場11台完備。発熱症状のある方の専用入口あり。
心不全でお悩みの方、または心不全が心配な方は、福岡市早良区のうらマイハートクリニックまでお気軽にご相談ください。
この症状でお悩みですか?
当院の専門外来では最適な治療プランをご提案しております。
参考文献
[1] 日本循環器学会・日本心不全学会.「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」2025年3月.
[2] 日本循環器学会・日本心不全学会.「『心不全の定義』記者発表について」2017年10月.
[5] 日本腎臓学会.「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2024」第2章 心腎連関.
[6] 日本心不全学会.「血中BNPやNT-proBNPを用いた心不全診療に関するステートメント」2023年10月.