血管迷走神経性失神とは?症状・原因・検査・治療を循環器専門医が解説|福岡市早良区
「朝礼で立っていたら急に目の前が真っ暗になって倒れた」「採血の注射を見たら気分が悪くなり気を失った」——このような経験はありませんか?こうした失神の原因として多いのが「血管迷走神経性失神(VVS)」です。一般に「迷走神経反射」と呼ばれる反応によって起こる失神です。血圧の低下や脈拍の低下により、脳への血流が一時的に減って起こります[1]。
命に直結する病気ではないことが多いものの、突然の転倒による大怪我(頭部外傷や骨折など)のリスクがあり、頻発すると生活の質(QOL)を著しく低下させます。
本記事では、血管迷走神経性失神の症状や原因、検査、そして国内外のガイドラインや近年の研究に基づく治療法まで、循環器専門医の視点で解説します。前兆が起きたときの対処や、日常生活で気をつけたい点もお伝えします[1][2][6]。
【この記事の要点】
- 血管迷走神経性失神は、痛みや緊張、長時間の起立などで血圧や脈拍が下がり、一時的に意識を失う状態です。
- 「採血で気分が悪くなる」「立っていると冷や汗が出て目の前が暗くなる」は、起こりやすい場面や前兆です。
- 前兆を感じたら、すぐに横になって転倒を防ぎましょう。呼びかけに反応しない場合は、回復を待たず救急要請してください。
- 診断では問診、診察、血圧・脈拍測定、心電図を基本に、危険な心臓病による失神ではないかを確認します。
この記事を書いた医師
うらマイハートクリニック院長 浦 祐次郎
(循環器専門医・総合内科専門医・TAVI実施医/指導医・心血管インターベンション治療学会認定医・SHD心エコー図認証医・心臓リハビリテーション指導士)
循環器専門医院長 浦 祐次郎から一言▶ 循環器専門医(院長 浦祐次郎)からの一言 「採血で倒れるなんて、気持ちが弱いのでしょうか」「また人前で倒れたらどうしよう」と不安になるかもしれません。これは、気合いで我慢すれば防げるものではありません。採血や注射で気分が悪くなった経験は、事前に遠慮なく教えてください。横になって受けるなど、起こりやすい場面に合わせて対策を考えましょう。
血管迷走神経性失神の症状と前兆
この失神の特徴は、意識を失う前に「前兆(前駆症状)」が現れることが多い点です。このサインを見逃さず、すぐに横になるなどの対処をすることで、転倒による怪我を防ぐことができます。ただし、前兆がほとんどない方もいます[1][6]。
主な前兆(前駆症状)
意識を失う数分〜数十秒前に、以下のような症状が現れることがあります。
| 症状分類 | 具体的な症状例 |
|---|---|
| 自律神経症状 | 冷や汗、生あくび、顔面蒼白、吐き気、腹部の不快感 |
| 脳虚血症状 | 目の前が暗くなる(ブラックアウト)、視界が狭くなる、耳鳴り、音が遠のく |
| 全身症状 | 強い脱力感、めまい、ふらつき、動悸 |
失神発作時の特徴
前兆に続いて意識を失い、姿勢を保てずに倒れ込みます。通常は横になって脳への血流が回復すると、短時間で自然に意識を取り戻します。意識回復後に長時間のもうろう状態が続くことは稀です。ただし、呼びかけに反応しなければ、回復を待たずに救急要請してください[6][12]。
前兆を感じたときの対処
「目の前が暗くなる」「冷や汗が出る」などの前兆を感じたら、我慢せずにその場で横になってください。横になれない場合は座るか、しゃがんで転倒を避けましょう。横になって足を少し高くする方法もあります。立ったまま我慢したり、歩いて移動しようとしたりすると、転倒して大怪我につながります[1]。
呼びかけに反応しない場合は119番通報し、普段どおりの呼吸がない、または呼吸の判断ができない場合は胸骨圧迫を開始してください。AEDがあれば使用し、通信指令員の指示に従いましょう[12]。
血管迷走神経性失神の原因と起こりやすい状況
血管迷走神経性失神は、痛みや緊張、長時間の起立など、特定のきっかけで起こることが多い失神です。ご自身がどのような場面で起こしやすいかを知ることが、予防の第一歩となります[1][6]。
主な誘因
| 分類 | 具体的な状況 |
|---|---|
| 身体的ストレス | 長時間の起立(朝礼、満員電車など)、激しい運動の直後、睡眠不足、疲労、脱水、発熱 |
| 精神的ストレス | 強い恐怖、極度の緊張、パニック、予期せぬ悪い知らせ |
| 痛み・医療処置 | 採血、注射、歯科治療、強い痛み(腹痛など) |
| 環境要因 | 人混み、閉鎖空間、高温多湿な環境 |
| 関連する状況失神 | 排尿・排便時、激しい咳き込み、嚥下(飲み込み)時 |
排尿・排便、咳、嚥下などをきっかけとする失神は、厳密には「状況失神」と呼ばれ、血管迷走神経性失神と同じ反射性失神に分類されます[6]。
薬剤の影響(特に高齢者)
高齢者の場合、高血圧や前立腺肥大症の治療薬(α遮断薬、β遮断薬、利尿薬など)の影響で血圧や脈拍が下がったり、体内の水分が減ったりして、失神を起こしやすくなることがあります。起立性低血圧など、別の原因が重なっていないかも確認します[1][2]。
【重要】自己判断での服薬中止は危険です 「薬が原因かもしれない」と思っても、絶対に自己判断で薬を減らしたり中止したりしないでください。急な中止は、血圧の急上昇(リバウンド高血圧)や、元の病気(心不全など)の急激な悪化を招く恐れがあります。必ず主治医や循環器専門医にご相談の上、安全に調整を行ってください。
血管迷走神経性失神のメカニズム
血管迷走神経性失神は、自律神経(交感神経と副交感神経)のバランスが一時的に崩れることで起こります。
通常、私たちが立っている時、重力で血液が下半身に溜まらないよう、交感神経が働いて血管を収縮させ、心拍数を上げて脳への血流を保ちます。しかし、何らかの強いストレス(痛み、恐怖、長時間の立位など)が加わると、この調整機能が誤作動を起こします。
具体的には、血管を収縮させる交感神経の働きが弱まることなどで血圧が下がり、副交感神経の一つである迷走神経の働きが強まると、心拍数も低下します。以下の2つが同時に、あるいは一方を中心に起こります[1]。
- 血管拡張(血管抑制型):血管が広がることで血圧が低下します。
- 心拍数低下(心抑制型):脈が極端に遅くなったり、一時的に心拍が止まったりします。
両方が重なる場合は「混合型」と呼ばれます[6]。
その結果、脳へ十分な血液(酸素)が送られなくなり、一時的に意識を失って倒れてしまうのです。これが血管迷走神経性失神のメカニズムです。
起こりやすい年代と特徴
血管迷走神経性失神は、失神の原因のなかで最も頻度の高いものの一つです。10代〜20代の若年層に多く見られますが、高齢者でも発症します。高齢者の場合は前兆が乏しいこともあり、加齢や服用薬の影響も含めて、ほかの失神の原因と区別することが大切です[1][6]。
血管迷走神経性失神の検査と診断
失神の診断において最も重要なのは、「命に関わる危険な失神(心原性失神)」を見逃さないことです。不整脈や心筋梗塞、大動脈弁狭窄症などが原因の失神は、突然死のリスクがあります。
診断の流れと主な検査
詳細な問診(どのような状況で倒れたか、前兆はあったか、服用薬は何か)に加え、診察、横になった状態と立った状態での血圧・脈拍測定、心電図を基本として評価します。そのうえで、疑われる病気や症状の頻度に応じて、必要な検査を組み合わせます。以下の検査を全員に行うわけではありません[1][2][6]。
| 検査名 | 目的と特徴 |
|---|---|
| 血圧・脈拍測定 (起立試験) |
横になった状態と立った状態での血圧・脈拍を測定し、起立性低血圧などを調べます[1][6]。 |
| 心電図・ホルター心電図 | 心電図は基本となる検査です。不整脈が疑われる場合には、症状の頻度に応じてホルター心電図などで長時間記録します。記録中に発作がなければ、正常な結果でも不整脈を否定できません[1][6]。 |
| 心エコー検査 | 心臓の構造やポンプ機能を調べます。弁膜症や心筋症など、心臓の病気が疑われる場合に行います[2]。 |
| 血液検査 | 必要に応じて、貧血や腎機能、電解質などを確認します。心臓への負担を示すB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を測定することもありますが、この検査だけで失神の原因を判断することはできません[2]。 |
| ヘッドアップ ティルト試験 |
傾斜するベッドに横になり、体を起こしたときの血圧と心拍数を観察します。問診などで診断がはっきりしない場合に、診断を補助する検査です。症状が再現されなくても、この病気を否定できるわけではありません[1][6]。 |
| 植込み型ループレコーダー(ILR) | 原因不明の失神を繰り返す場合などに、皮下に小型の心電計を植え込み、数年間(機種により異なります)心電図を記録します。発作時の不整脈の有無を調べるために役立ちます[6]。 |
循環器専門医院長 浦 祐次郎から一言▶ 循環器専門医(院長 浦祐次郎)からの一言 「すぐに意識が戻ったので大丈夫」「前にも同じことがあったから、いつもの発作だろう」と思うかもしれません。倒れる前に何をしていたか、冷や汗や吐き気があったか、目撃した方がどのような様子を見たかは、大切な手がかりです。繰り返す失神も、自己判断せずご相談ください。
血管迷走神経性失神の治療と再発予防
治療の目標は、失神の再発を防ぎ、転倒による怪我を回避して生活の質を向上させることです。欧州心臓病学会(ESC)の2018年失神ガイドラインなどに基づき、まずは生活上の対策から開始し、失神を繰り返す場合には薬物療法などを検討します。ペースメーカー治療の対象となるのは、一定の条件を満たす一部の患者さんです[1][2][5]。
1. 生活指導と予防策
- 誘因の回避:満員電車や長時間の起立など、ご自身が失神を起こしやすい状況を避けます。採血や注射で気分が悪くなったことがある方は、事前にスタッフに伝え、横になって受けるなどの対策を相談しましょう。
- 水分・塩分摂取:脱水を避け、こまめな水分補給を心がけましょう。水分や塩分の適切な量は、血圧や心臓・腎臓の状態によって異なります。高血圧、心不全、腎臓病がある方は、自己判断で増やさず、主治医に相談してください[1][2]。
- 筋肉に力を入れる方法:前兆を感じた際、両足を交差させて筋肉に力を入れる、両手を組んで強く引っ張り合うなどの動作で血圧を上げ、失神を防げる場合があります。ただし、倒れそうなときは無理に立ち続けず、横になることを優先してください[1]。
2. 体力や筋力を保つための運動
適度な運動は、体力や下肢の筋力を保つために役立ちます。失神の原因や起こり方を確認したうえで、安全に行える運動を医師と相談しましょう。運動を含むプログラムで失神の再発が減った研究もありますが、効果や適切な方法については、さらに検討が必要です[13]。
3. 薬物療法
生活上の対策でも失神を繰り返す場合に、症状や血圧などに応じて薬物療法を検討します[1][2]。
| 薬剤名 | 作用とエビデンス |
|---|---|
| ミドドリン塩酸塩(メトリジン®など) | 血管を収縮させて血圧を維持します。2021年のPOST 4試験では、失神を繰り返す133人を対象に、若年患者を中心として再発を減らす効果が示されました[3]。 |
| フルドロコルチゾン(フロリネフ®) | 体内の水分と塩分を保持して血液量を増やします。効果を示唆する報告はありますが、POST 2試験の主要な評価項目では明確な効果は示されず、再発予防効果は十分に確立していません[7]。 |
血管迷走神経性失神そのものは、いずれの薬も国内の添付文書に記載された承認適応に含まれません。使用の必要性や注意点について、医師が説明したうえで判断します[9][10]。
β遮断薬は、比較試験で失神の再発予防効果が十分に示されておらず、通常は推奨されません。2026年に公表された試験と複数の試験をまとめた解析でも、明確な再発予防効果は示されませんでした[8]。
4. 一部の重症例に対するペースメーカー治療
生活上の対策などを行っても、前兆が乏しい失神を繰り返し、失神に関係する著しい徐脈(脈が遅くなること)や心拍の一時停止が確認された一部の患者さんでは、ペースメーカー治療を検討します[5][14]。
日本循環器学会/日本不整脈心電学会の2024年ガイドラインでは、40歳以上で、脈が極端に遅くなる「心抑制型」の反射性失神を繰り返し、ティルト試験でも心抑制型が確認される場合に、心臓の状態に応じて心拍数を調整するCLS機能付きペースメーカーを検討することとしています(推奨クラスIIa)。すべての血管迷走神経性失神が対象ではありません[14]。
127人を対象としたBIOSync CLS試験では、心臓の状態に応じてペーシングを調整する機能を備えたペースメーカーを作動させた群で、失神の再発が少なくなりました。約11か月の観察期間(中央値11.2か月)での再発は、作動させた群で16%、作動させなかった群で53%でした。ただし、これは心拍の一時停止を伴う重症例を対象とした結果です[4]。
欧州心臓病学会の2021年ペーシングガイドラインでは、40歳を超え、重症で予測困難な失神を繰り返し、自然発作やティルト試験などで失神に関係する心拍の一時停止が確認された患者さんに、ペースメーカー治療を推奨しています。ティルト試験では、失神の再現に加えて3秒を超える心拍の停止が条件となります。ただし、ペースメーカーで血圧低下を完全に防ぐことはできないため、適応を慎重に判断します[5]。
このような症状があればご相談ください
失神は「ただの立ちくらみ」と放置せず、一度は医療機関で原因を調べることが重要です。特に以下に当てはまる方は、危険な心臓病などが隠れている可能性があるため、意識が戻っていても早急に医療機関を受診してください[6]。
- 前兆(冷や汗や吐き気など)が全くなく、突然バタンと倒れた
- 運動中や、仰向けに寝ている時に意識を失った
- 動悸や胸の痛み、息苦しさを伴っていた
- 意識消失が長かった、または意識が戻った後も、もうろうとした状態が続いた
- 家族に突然死をした人がいる
- 心臓病の持病がある
血管迷走神経性失神のよくある質問
呼びかけに反応しない、強い胸痛や息苦しさがある、大きなけがをした場合は、救急要請してください。反応がなく、普段どおりの呼吸がない、または呼吸の判断ができない場合は、周囲に助けを求め、胸骨圧迫を開始します。自動体外式除細動器(AED)があれば音声案内に従って使用し、救急の通信指令員の指示に従ってください[12]。
福岡市で失神の診療なら うらマイハートクリニック
うらマイハートクリニック(福岡市早良区藤崎・原)は、内科・循環器内科・腎臓内科・呼吸器内科を診療し、心臓リハビリテーションにも対応するクリニックです。
院長(浦 祐次郎)は、循環器専門医・総合内科専門医・心血管インターベンション治療学会認定医・TAVI実施医/指導医・SHD心エコー図認証医・心臓リハビリテーション指導士として、九州医療センターで13年間、小倉記念病院で1年半にわたり、重症心疾患の診療に従事してきました。副院長の浦 雅紀子は腎臓内科医として、福岡山王病院で約5年間、九州医療センターで6年間にわたり、心腎連関を踏まえた包括的な腎臓病診療に従事してきました。
現在はうらマイハートクリニックにて内科医2名体制で円滑な診療に努めています。
- 院内での迅速な検査体制:BNPなど含む当日結果のわかる多様な血液検査、心臓を含む各種エコー検査、総合病院レベルの64列CT(冠動脈CT含む)に対応。
- 治療後のサポート:心臓リハビリ施設「ReHeart Gym」で専門スタッフが体力回復・再発予防を支援。
- 通いやすい診療体制:診療開始は8時30分から、水曜は20時まで診療。駐車場11台完備。発熱症状のある方の専用入口あり。
「採血や満員電車で気分が悪くなる」「失神を繰り返している」「また倒れるのが不安で外出をためらう」などのお悩みがある方は、福岡市早良区のうらマイハートクリニックまでお気軽にご相談ください。
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