肺血栓塞栓症とは?症状・原因・検査・治療を循環器専門医が解説|福岡市早良区
「最近、階段を上るだけで息が切れる」「長時間座っていた後に急に胸が痛くなった」といった症状にお悩みではありませんか。これらの症状は、単なる疲れや年齢のせいではなく、「肺血栓塞栓症(はいけっせんそくせんしょう)」のサインかもしれません。長時間の移動などをきっかけに発症する静脈血栓塞栓症は、いわゆる「エコノミークラス症候群(旅行者血栓症)」と呼ばれます。
肺血栓塞栓症は、主に足や骨盤の深い静脈にできた血の塊(血栓)が、血流に乗って肺の動脈を詰まらせることで発症し、時に命に関わることもある重大な疾患です。しかし、早く診断して適切な治療を始めることが、救命や重症化の防止につながります。
本記事では、肺血栓塞栓症の基本的な定義から、見逃されやすい症状、原因、そして最新の治療法まで、循環器専門医の視点で詳しく解説します。
この記事の要点
- 肺血栓塞栓症は、主に足や骨盤の静脈にできた血の塊が肺の動脈を詰まらせ、息切れや胸痛などを起こす病気です。
- 「急に息が切れる」「深呼吸すると胸が痛い」「片足だけ腫れた」は注意したいサインで、足の症状がない場合もあります。
- 突然の強い息苦しさ、胸痛、失神、意識がもうろうとする場合は、自分で運転せず119番で救急車を呼んでください。
- 診断にはDダイマー、造影CT、心エコーなどを組み合わせます。治療は抗凝固薬が中心で、期間は原因や病状によって異なります。
この記事を書いた医師
うらマイハートクリニック院長 浦 祐次郎
(循環器専門医・総合内科専門医・TAVI実施医/指導医・心血管インターベンション治療学会認定医・SHD心エコー図認証医・心臓リハビリテーション指導士)
循環器専門医院長 浦 祐次郎から一言▶ 循環器専門医(院長 浦祐次郎)からの一言 実際の診療では、「軽い息切れが続いていたが様子を見ていた」という方が、突然重症化して救急搬送されるケースも多々経験します。早期診断・早期治療が重症化の防止につながります。
肺血栓塞栓症とは?定義と肺・心臓で起きていること
肺血栓塞栓症は、主に足や骨盤の深い静脈にできた血栓が肺動脈を詰まらせる病気です。深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症は、まとめて静脈血栓塞栓症と呼ばれます[1]。血栓による肺塞栓症を、肺血栓塞栓症と呼びます。
長時間の移動などをきっかけに静脈血栓塞栓症を発症した状態が、いわゆる「エコノミークラス症候群(旅行者血栓症)」です。
肺の血管が詰まるとガス交換が妨げられ、全身が酸素不足に陥り、突然の息切れや胸痛が生じます。重症の場合、心臓の右側(右心室)に急激な負担がかかり、血圧低下やショックを起こすことがあります。
肺血栓塞栓症の症状|初期の見逃しやすいサインから重症まで
症状は血栓の大きさや場所により様々ですが、注意すべき危険なサインがあります。軽い症状から徐々に進むとは限らず、突然、重い症状で発症することもあります。
初期症状(見逃されやすいサイン)
最も多いのは「原因不明の突然の息切れ」です [1]。以下は初期サインの可能性があります。
- 労作時の息切れ:以前は平気だった動作で急に息が上がる。
- 胸の痛み:深呼吸や咳で悪化する鋭い痛み。
- 頻呼吸:呼吸が浅く速くなる。
- 不安感:理由のない強い不安感。
進行・重症化のサイン|こんな症状は緊急受診を
失神、ショック状態、チアノーゼ、突然の強い息苦しさや胸痛がある場合は、自分で運転せず、直ちに救急要請してください。動悸や血痰がある場合も、速やかな受診が必要です。
- 失神:意識を失う。
- 動悸:心臓がドキドキする。
- 血痰:血の混じった痰が出る。
- ショック状態:血圧低下、冷や汗、意識がもうろうとする。
- チアノーゼ:唇や爪が紫色になる。
血栓の発生源「深部静脈血栓症」のサイン
血栓の発生源である足に、以下のような症状(深部静脈血栓症)が現れることもあります。
- 片方の足(特にふくらはぎ)の腫れ
- 押すと痛む(圧痛)
- 皮膚が赤くなったり、熱っぽく感じたりする
- 歩行時のふくらはぎの痛み
これらは深部静脈血栓症(DVT)にみられる症状で、肺血栓塞栓症を発症する前に現れることがあります。ただし、足の腫れや痛みがなくても、肺血栓塞栓症を発症することがあります。必ず前兆があるわけではなく、症状やセルフチェックだけでは診断できません。
肺血栓塞栓症の原因|なりやすい病気と生活習慣
血栓は、主に「血流の停滞」「血管の障害」「血液が固まりやすい状態」の3要素(ウィルヒョウの3徴)で形成されやすくなります [3]。
主なリスク因子
- 長時間の不動:手術後、ギプス固定、長距離移動、寝たきりなど。
- 手術・外傷:特に整形外科手術や大きな手術。
- 悪性腫瘍(がん)
- 妊娠・産褥期
- 経口避妊薬(ピル)・ホルモン補充療法
- 肥満、喫煙
- 遺伝性血栓性素因
血栓ができやすい体質と基礎疾患
上記のリスク因子に加え、生まれつき血液が固まりやすい体質(先天性血栓性素因)や、後天的に血栓ができやすくなる病態(後天性血栓素因)も、肺血栓塞栓症の重要な原因です[6]。
血栓ができやすい体質(血栓素因)について
先天性の血栓性素因として、プロテインS、プロテインC、アンチトロンビンなどの異常によって血栓ができやすくなる方もいます[7]。若年での発症、血栓症の再発、血栓症の家族歴などがある場合には、検査結果が治療方針に影響するかを考慮し、必要に応じて血栓性素因の検査を検討します[6]。
後天性の血栓性素因としては、抗リン脂質抗体症候群(APS)が代表的です。また、悪性腫瘍(がん)そのものが血液凝固を活性化させることが知られており、がん患者さんの肺血栓塞栓症には特に注意が必要です[3]。さらに、入院を要するような中等症以上の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)も、血栓症のリスクを高めることが報告されています[1]。
血栓素因の詳しい解説や当院の専門的な血液検査については、深部静脈血栓症(DVT)のページもあわせてご覧ください。
心不全や一部の腎臓病も、肺血栓塞栓症のリスクを高めることがあります。
心不全では血流が滞りやすく、ネフローゼ症候群などの腎臓病では、血液を固まりにくくするタンパク質が尿中に失われることなどによって、血栓ができやすくなります。病状や治療内容によってリスクが異なるため、予防法や抗凝固薬の種類・用量は個別に判断します[1][8]。
肺血栓塞栓症の検査・診断|Dダイマー・造影CT
肺血栓塞栓症が疑われる場合、迅速な診断が不可欠です。
主な検査
- 血液検査(Dダイマー):Dダイマーは、問診などから肺血栓塞栓症の可能性が低い、または中程度と判断される場合に、病気を除外するために用います。Dダイマーが高いだけでは肺血栓塞栓症とは診断できません。
- 心電図検査:心臓への負担や不整脈などを調べます。ただし、心電図だけで肺血栓塞栓症を診断したり、否定したりすることはできません。
- 心エコー検査:心臓の動きや負担をリアルタイムで評価します。
- 肺動脈造影CT検査:肺動脈内の血栓を画像で確認します。
- 下肢静脈エコー検査:血栓の発生源である足の静脈を調べます。
当院の強み:当院では、血栓症の可能性を評価するDダイマーなどを院内で迅速に測定し、緊急性を評価します。
造影CTによる確定診断
肺血栓塞栓症の診断に用いられる標準的な画像検査が、肺動脈造影CT検査です。造影剤を腕の静脈から注射しながらCTを撮影することで、肺動脈内の血栓を造影欠損として描き出します。腎機能や造影剤アレルギーなどの理由で造影CTを行えない場合には、ほかの検査を検討します。
当院では高性能64列CTを備えており、状態が安定している方では、肺血栓塞栓症が疑われる場合に院内で速やかな画像評価が可能です。重症が疑われる場合や高度な治療が必要な場合は、救急対応が可能な医療機関と連携します。
肺血栓塞栓症の治療|薬物療法からカテーテル治療まで
肺血栓塞栓症は、血圧や呼吸状態、心臓への負担などによって重症度を判断します。日本のガイドラインでは、高リスク、中高リスク、中低リスク、低リスクなどに分類し、治療方針を検討します[1]。2026年の米国ガイドラインでは、症状や循環・呼吸状態に基づくClinical Category A~Eの分類が導入されています[2]。
治療は重症度に応じて、①急性期の救命、②再発予防、③後遺症予防を柱に行います。
薬物療法(抗凝固療法)
治療の基本は、血栓の増大や新たな形成を防ぐ抗凝固療法(血液を固まりにくくする治療)です。
治療の中心は抗凝固薬です。状態や使用する薬によって、注射薬から治療を始める場合と、内服薬から始める場合があります。多くの患者さんでは直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)が選択されますが、妊娠中、重い腎機能障害、抗リン脂質抗体症候群などでは、別の薬が適することがあります[1][2]。
抗凝固療法の期間は、血栓ができた原因と再発・出血のリスクによって異なります。手術や骨折など一時的な原因が明らかな場合でも、原則として少なくとも3か月間治療します。原因が明らかでない場合や、がんなどのリスクが続く場合には、再発リスクと出血リスクを定期的に見直しながら、より長期間の治療を検討します[1][2][4]。
重症例に対する専門的治療(血行再建術)
血圧低下やショックを伴う重症例や、治療中にも状態が悪化する一部の患者さんでは、血栓を積極的に取り除く「血行再建術」が検討されます[1][2]。
- 血栓溶解療法:強力な薬剤で血栓を溶かす治療。
- カテーテル治療:カテーテルで血栓を直接破砕・吸引する治療。
- 外科的血栓摘除術:手術で直接血栓を取り除く治療。
肺血栓塞栓症の予防と再発防止|日常生活でできること
再発予防には、処方された抗凝固薬を正しく続けることに加え、生活上の工夫も重要です。
日常生活での注意点
- 「動く」を意識する:長時間座り続けるときは、30分~1時間を目安に立ち上がって歩きましょう。座ったままでも、かかとの上げ下ろしや足首を動かす運動が役立ちます。
- こまめに水分をとる:脱水を避けるため、水やお茶などを少しずつ補給しましょう。ただし、心不全や腎臓病で水分制限を指示されている方は、主治医の指示に従ってください。
- 弾性ストッキングは医師と相談する:弾性ストッキングは全員に必要なものではありません。医師が必要と判断した場合に、適切なサイズと使用方法で着用します。
- 禁煙する:喫煙は血管を傷つけ、心筋梗塞や脳卒中などのリスクも高めます。禁煙が難しい場合は、医療機関へご相談ください。
定期通院の重要性
抗凝固薬の服用中は、効果と副作用の確認のため定期的な通院が不可欠です。自己判断での中断は絶対に避けてください。
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)への移行に注意
肺血栓塞栓症の後、血栓が線維化して肺動脈に残り、息切れや運動能力の低下が続く状態を慢性血栓塞栓性肺疾患(CTEPD)と呼びます。そのうち肺高血圧を伴うものが慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)です。肺血栓塞栓症後の約2~4%にCTEPHが生じると報告されています[5]。2026年の米国ガイドラインでは、治療後少なくとも1年間は、診察の際に息切れや運動能力の低下などがないか確認することが推奨されています[2]。症状が続く場合には、必要に応じて心エコー検査や血液検査などを行います[1][2]。CTEPHなどが疑われる場合は、肺血流シンチグラフィなどの追加検査や専門施設への紹介を検討します。
このような症状があればご相談ください
肺血栓塞栓症は、急速に状態が悪化することがあります。突然の強い息苦しさ、胸痛、失神、冷や汗、意識障害、チアノーゼがある場合は、通常の外来受診を待たず、直ちに救急要請してください。軽い息切れが続く場合や、片方の足に急な腫れ・痛みがある場合も、早めの受診が必要です。
受診の目安|救急要請が必要な症状と早めに相談したいケース
以下の症状や状況に当てはまる場合は、肺血栓塞栓症に注意が必要です。突然の強い息苦しさや胸痛、失神がある場合は直ちに救急要請し、症状が比較的軽い場合や発症リスクに当てはまる場合も早めに医療機関へご相談ください。
- 理由なく突然、息苦しくなった
- 深呼吸や咳をすると胸が痛む
- 急に意識が遠のいた、または失神した
- 片方の足が急に腫れて痛くなった
- 最近、大きな手術を受けた、または長期間寝たきりだった
- がんの治療中である
- 経口避妊薬(ピル)を服用している
肺血栓塞栓症は早期発見・早期治療が予後を大きく左右します。
よくある質問(FAQ)
完全に同じ意味ではありません。いわゆる「エコノミークラス症候群(旅行者血栓症)」は、長時間の移動などをきっかけに深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症を発症する状態を指します。飛行機だけでなく、車やバスでの長距離移動などでも起こります。長時間の移動でリスクは高まりますが、「何時間以内なら安全」とは言い切れません。手術後や血栓症の既往などによっても異なります。
原因によります。手術など一時的な原因が明らかな場合でも、原則として少なくとも3か月間治療します。原因が明らかでない場合やリスクが続く場合は、再発と出血のリスクを定期的に評価しながら、長期間の服用を検討します。自己判断で中止せず、主治医と相談してください。
治療によって呼吸や血圧などが安定した後は、医師と相談しながら、歩行などの軽い運動から段階的に再開します。再開時期や運動量は、重症度や心臓への負担によって異なります。息切れや胸痛を我慢して運動することは避けてください。抗凝固薬の服用中は、転倒や衝突による出血にも注意が必要です。
特定の食品だけで血栓を溶かすことはできません。栄養バランスを整え、脱水を避けましょう。ただし、心不全や腎臓病などで水分制限がある方は、主治医の指示に従ってください。ワルファリンを服用している場合は、納豆など避ける必要のある食品があります。薬によって注意点が異なるため、サプリメントも含めて医師や薬剤師に確認してください。
一部の方では、生まれつき血液が固まりやすい体質が関係します。ただし、ご家族に血栓症の方がいても、必ず発症するわけではありません。若い年齢で発症した方や、血栓症を繰り返す方、ご家族にも血栓症の方がいる場合は、診察時にお伝えください。遺伝や体質に関する検査は、治療方針に役立つかを考えて必要な方に行います[6]。
突然の強い息苦しさや胸痛、失神、冷や汗を伴うぐったりした状態、意識がもうろうとする症状がある場合は、119番で救急車を呼んでください。足の腫れや痛みがなくても、肺血栓塞栓症は起こることがあります。自分で車を運転して受診することは避けてください。
福岡市で肺血栓塞栓症の診療なら|うらマイハートクリニックの特徴
うらマイハートクリニック(福岡市早良区藤崎・原)は、内科・循環器内科・腎臓内科・呼吸器内科を診療し、心臓リハビリテーションにも対応するクリニックです。
院長(浦 祐次郎)は、循環器専門医・総合内科専門医・心血管インターベンション治療学会認定医・TAVI実施医/指導医・SHD心エコー図認証医・心臓リハビリテーション指導士として、九州医療センターで13年間、小倉記念病院で1年半にわたり、重症心疾患の診療に従事してきました。副院長の浦 雅紀子は腎臓内科医として、福岡山王病院で約5年間、九州医療センターで6年間にわたり、心腎連関を踏まえた包括的な腎臓病診療に従事してきました。
現在はうらマイハートクリニックにて内科医2名体制で円滑な診療に努めています。
- 院内での迅速な検査体制:BNPなど含む当日結果のわかる多様な血液検査、心臓を含む各種エコー検査、総合病院レベルの64列CT(冠動脈CT含む)に対応。
- 治療後のサポート:心臓リハビリ施設「ReHeart Gym」で専門スタッフが体力回復・再発予防を支援。
- 通いやすい診療体制:診療開始は8時30分から、水曜は20時まで診療。駐車場11台完備。発熱症状のある方の専用入口あり。
「急に息切れが出るようになった」「片足の急な腫れや痛みがある」など気になる症状がある方は、うらマイハートクリニックにお早めにご相談ください。
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