僧帽弁閉鎖不全症とは?症状・原因・検査・治療を循環器専門医が解説|福岡市早良区
「階段での息切れ」「夜中の咳」。それは年齢のせいではなく、心臓の弁がうまく閉じずに血液が逆流する「僧帽弁閉鎖不全症」のサインかもしれません。国内の保険診療データを用いた研究では、僧帽弁閉鎖不全症は弁膜症の中で最も多く、患者数は年齢とともに増加することが示されています[1]。静かに進行し、気づかぬうちに心臓の働きが低下して「心不全」という命に関わる状態に至ることもありますが、早期発見と適切な治療によって症状や心臓への負担を軽減できる可能性があります。弁膜症は「重篤な症状が出る前に適切なタイミングで介入すること」が最も重要な疾患の一つです。
本記事では、大動脈弁閉鎖不全症の症状から検査・治療、日常生活の注意点から、臨床経験をもとに実際の診療で重視しているポイントまで循環器専門医が解説します。
この記事の要点
- 僧帽弁閉鎖不全症は、心臓の弁が十分に閉じず、血液が逆流する病気です。症状がなくても心臓に負担がかかることがあります。
- 「以前より階段で息切れする」「疲れやすい」「足がむくむ」は、早めに相談したいサインです。
- 突然の強い息苦しさ、意識を失う、ピンク色の泡状の痰が出る場合は、119番で救急車を呼んでください。
- 診断の中心は心エコーです。原因や重症度に応じて、経過観察、薬、手術、カテーテル治療を選びます。
この記事を書いた医師
うらマイハートクリニック院長 浦 祐次郎
(循環器専門医・総合内科専門医・TAVI実施医/指導医・心血管インターベンション治療学会認定医・SHD心エコー図認証医・心臓リハビリテーション指導士)
循環器専門医院長 浦 祐次郎から一言▶ 循環器専門医(院長 浦祐次郎)の臨床コメント 九州医療センターの弁膜症外来などで、数多くの僧帽弁閉鎖不全症患者さんの診断と治療方針決定に携わってきました。TAVI指導医およびSHD心エコー図認証医として、構造的心疾患(弁膜症など)に対するカテーテル治療と超音波診断の両面で臨床経験を重ねています。当院でも精度の高い心エコー検査により、重症度を適切に評価し、治療時期を慎重に見極めます。臨床経験をもとに実際の診療で重視しているポイントも交えながら解説します。
僧帽弁閉鎖不全症とは?定義と心臓で起きていること
僧帽弁閉鎖不全症は「僧帽弁逆流症」とも呼ばれ、英語の略称はMRです。心臓の左心房(血液を受け取る部屋)と左心室(血液を送り出す部屋)を仕切る僧帽弁が、十分に閉じなくなる弁膜症の一つです。弁が開きにくくなる「僧帽弁狭窄症」とは異なり、血液が逆流する病気です。
左心室が全身に血液を送り出す際、この弁が閉じることで血液の逆流を防ぎます。しかし、弁がうまく閉じないと、血液の一部が左心房へ逆流してしまいます。
この逆流により、心臓は通常より多くの仕事を強いられ、長期間続くと次第にポンプ機能が低下して「心不全」に至ることがあります。
僧帽弁閉鎖不全症の症状と受診の目安
僧帽弁閉鎖不全症は、自覚症状がなく、健康診断の心雑音や心エコーで見つかることがあります。重症でも症状に乏しい場合があるため、症状の有無だけでは重症度を判断できません。息切れや疲れやすさを年齢のせいだと思い込んでいたというケースもあります。
気づきにくい症状・日常生活でのサイン
加齢による体力低下と区別がつきにくいのが特徴です。思い当たる場合はご相談ください。
「体力が落ちただけ」「仕事の疲れがたまっているだけ」と思っていたという方が非常に多いのが特徴です。
| 症状 | 具体的な自覚 | なぜ起こるのか |
|---|---|---|
| 労作時の息切れ | 以前は平気だった階段や坂道で息が上がる、疲れやすい | 逆流により左房圧・肺静脈圧が上昇して肺うっ血を生じたり、全身へ送り出す血液量が不足したりするため |
| 動悸 | 心臓がドキドキする、脈が乱れる感じがする | 逆流による心臓への負荷増大や、心房細動などの不整脈が引き起こされるため |
| 夜間の咳 | 横になると咳が出たり息苦しくて目が覚めたりする | 肺に血液がうっ滞し(肺うっ血)、刺激によって咳が引き起こされるため |
進行・重症化のサイン|早めの受診・救急要請が必要な症状
心不全が悪化すると安静時にも症状が出ます。突然の強い息苦しさ、意識を失う、ピンク色の泡状の痰が出る場合は、119番で救急車を呼んでください。横になると苦しく、起き上がると楽になる「起坐呼吸」も、早急な受診が必要なサインです。
| 症状 | 受診の目安 |
|---|---|
| 安静時の呼吸困難 | 突然の強い息苦しさや、呼吸が苦しく会話できない場合は119番で救急車を呼んでください。徐々に悪化する場合も、次の定期受診を待たずに相談してください。 |
| 起坐呼吸(きざこきゅう) | 早急に医療機関を受診してください。強い息苦しさを伴う場合は119番で救急車を呼んでください。 |
| 足のむくみ(浮腫) | 数日で悪化した場合や急な体重増加を伴う場合は、早めに医療機関へ相談してください。 |
| 急激な症状悪化 | 突然の強い息苦しさ、意識を失う、強い胸痛と冷や汗、ピンク色の泡状の痰がある場合は119番で救急車を呼んでください。 |
僧帽弁閉鎖不全症について、このような症状があればご相談ください
「年齢のせい」「まだ大丈夫」と迷っている段階で、早めに相談することが大切です。
受診の目安|早めの相談が大切なケース
以下のような症状や状態に心当たりがある方は、僧帽弁閉鎖不全症の可能性を含め、循環器専門医への相談をお勧めします。
- 健康診断で「心雑音」を指摘された
- 階段や坂道で以前より息切れがひどくなった
- 足のすねを押すとへこみが戻らない(むくみ)
- 夜、横になると咳が出たり、息苦しくて目が覚めたりする
- 理由なく体重が数日で2〜3kg増えた
- 動悸や脈の乱れを感じることがある
- 健康診断で心電図異常や「心拡大」を指摘された
僧帽弁閉鎖不全症の原因|弁の異常と心臓の変化
僧帽弁閉鎖不全症は、弁や弁を支える組織の異常が原因の「一次性」と、心室や心房の変化が原因の「二次性」に分けられ、治療方針が異なります。
僧帽弁閉鎖不全症の種類|原因による2つの分類
原因により治療方針が異なるため、以下の2つに大別されます。一次性は弁自体が、二次性は心臓の他の病気が原因で起こります。二次性MRには、左室拡大などによる「心室性」と、心房細動などに伴う左房・弁輪拡大による「心房性」があります[2][5]。
| 分類 | 原因 | 特徴 |
|---|---|---|
| 一次性(器質性)MR | 僧帽弁逸脱症(MVP)、腱索断裂、感染性心内膜炎、リウマチ性など | 弁や弁を支える組織の構造異常が原因。重症の場合などには弁形成術・弁置換術を検討する。 |
| 二次性(機能性)MR | 心筋梗塞後の左室拡大・変形、拡張型心筋症、心房細動に伴う左房・弁輪拡大など | 弁自体ではなく心室や心房の変化によって弁が閉まりにくくなる。心室性と心房性があり、原因となる心疾患の治療が基本となる |
主な原因
| 原因 | 詳細 |
|---|---|
| 僧帽弁逸脱症(MVP) | 弁尖が収縮期に左心房側へ逸脱する状態。米国の住民を対象とした研究では約2.4%に認められ、一部では僧帽弁閉鎖不全症の進行や腱索断裂を生じることがある[4][10]。 |
| 腱索断裂 | 僧帽弁を支える腱索(糸)が切れることで弁が突然閉じなくなる。急性の重症MRを引き起こし、緊急手術が必要になることがある。 |
| 感染性心内膜炎 | 口腔内などの細菌が血流に入り、弁に感染して弁組織を破壊する。侵襲的な歯科処置などで菌血症が起こる場合がある[3]。 |
| 心筋梗塞後・虚血性心疾患 | 心筋梗塞後などに左心室が拡大・変形し、弁が引っ張られて閉じにくくなる場合は二次性MR。一方、心筋梗塞に伴う乳頭筋断裂は支持組織そのものの破綻による急性MRであり、緊急治療が必要となる。 |
| 拡張型心筋症 | 心筋の病気で左心室が拡大することで、弁輪も広がりMRが生じる(二次性)。 |
| リウマチ熱 | 以前は主要な原因。溶連菌感染後の後遺症として弁が障害される。現在は稀。 |
| 心房細動などに伴う心房・弁輪の拡大 | 左心房や弁の付け根(弁輪)が拡大し、弁が合わなくなる。心房性の二次性MRに当たる。 |
若年者における一次性僧帽弁閉鎖不全症
僧帽弁閉鎖不全症は加齢に伴って増加する病気ですが、一次性(器質性)の場合は10代〜30代の若年者でも発症することがあります。
- 僧帽弁逸脱症(MVP):弁尖が収縮期に左心房側へ逸脱する状態です。米国の住民を対象とした研究では約2.4%に認められ、一部では僧帽弁閉鎖不全症の進行や腱索断裂を生じることがあります[4][10]。
- 感染性心内膜炎:口腔内などの細菌が血流に入り、弁に感染して弁組織を破壊する病気です。年齢を問わず発症し、急速な弁破壊や心不全を生じた場合には早期手術が必要になることがあります[3]。
- 胸部打撲(鈍的外傷):交通事故やスポーツなどで胸を強く打った際に、腱索や乳頭筋が断裂し急性発症することがあります。胸部外傷後に息切れや動悸が出現した場合は、速やかな心エコー検査が重要です[5]。
僧帽弁閉鎖不全症の疫学|高齢者で増加
僧帽弁閉鎖不全症は年齢とともに頻度が高くなります。特に一次性僧帽弁閉鎖不全症では、加齢に伴う弁組織の変性が代表的な原因です。高齢化の進む日本では、今後も患者数の増加が見込まれます[1]。
心腎連関と生活習慣
心臓と腎臓は密接に関連しており、一方が悪くなるともう一方も悪化する「心腎連関」という負のスパイラルに陥ることがあります[9]。僧帽弁閉鎖不全症による心機能低下は腎臓に負担をかけ、逆に腎機能低下は心臓に負担をかけます。この悪循環を断ち切るには、両方の専門的視点からの治療が重要です。
また、二次性MRの背景となる高血圧、虚血性心疾患、心不全などには生活習慣が関係することがあります。生活習慣の見直しは、これらの心血管疾患の予防・管理に重要です。
僧帽弁閉鎖不全症の検査・診断|心エコー検査が鍵
診断は問診、身体診察(心雑音の聴取)から始まり、以下の検査を組み合わせて総合的に判断します。特に心エコー検査が診断の鍵です。
診断の流れ(初診〜確定診断まで)
- 問診:息切れ、動悸、夜間の咳などの症状の有無・程度、既往歴の確認。
- 身体診察:聴診器で心雑音(血液が弁を逆流する際の特有の音)の有無を確認。
- 画像検査:心エコー検査で弁の状態、逆流の程度を詳細に評価し、診断を確定。
- 追加検査:胸部X線、心電図、血液検査(BNP/NT-proBNP)に加え、必要に応じて経食道心エコー、心臓MRI、心臓CTなどで重症度や心臓全体の状態を評価。
- 確定診断:上記の結果を総合し、僧帽弁閉鎖不全症の有無・原因・重症度を判定。
主な検査(心エコー・BNP・CTなど)
| 検査名 | 何がわかるか | 特徴 |
|---|---|---|
| 心エコー検査(心臓超音波検査) | 弁の形態・動き、逆流の重症度(EROA、逆流量)、心臓のポンプ機能(EF)、左心室・左心房の拡大度合い。 | 被ばくや痛みがなく、診断と重症度評価に最も重要な検査。当院ではSHD心エコー図認証医が結果を確認し、総合的に評価します。 |
| 胸部X線検査 | 心臓の拡大(心拡大)、肺うっ血の有無。 | 心不全による肺への影響を評価。 |
| 心電図検査 | 心房細動などの不整脈、心肥大の所見。 | 不整脈の合併は手術適応に関わる重要な所見。 |
| BNP/NT-proBNP(血液検査) | 心臓への負担を数値化。心不全の重症度評価に有用。 | 年齢、腎機能、心房細動などの影響も受けるため、他の検査と合わせて評価します。 |
| 心臓CT・追加画像検査(必要時) | 心臓CTでは僧帽弁周囲や冠動脈、左心室の形態などを評価。必要に応じて経食道心エコーや心臓MRIも行う。 | 心エコーだけでは評価が難しい場合や、手術・カテーテル治療前の詳しい評価などに用います。 |
循環器専門医院長 浦 祐次郎から一言▶ 循環器専門医(院長 浦祐次郎)の臨床コメント SHD心エコー図認証医として、僧帽弁閉鎖不全症の重症度評価では、逆流量・逆流率・有効逆流口面積(EROA)など複数の指標を組み合わせた総合的な判断が不可欠です。一つの数値だけで正確に評価することは難しく、各指標には計測誤差や病態による変動もあります。そのため、症状、心臓の大きさ・機能、経時的な変化を含めて判断します<a href="#reference-2">[2]</a><a href="#reference-5">[5]</a>。
僧帽弁閉鎖不全症の治療|薬・手術・カテーテル
治療は重症度や原因に応じて、薬物療法、外科的治療、カテーテル治療を組み合わせます。目的は症状を和らげ、心不全への進行を抑え、予後の改善を目指すことです[2][5]。
循環器専門医院長 浦 祐次郎から一言▶ 循環器専門医(院長 浦祐次郎)の臨床コメント 私のこれまでの診療の中で、手術のタイミングが遅れたために、心臓の働きが低下してしまったケースも経験しており、治療時期の見極めが重要だと考えています。「悪くなっているなら早く手術してほしい」と言われることもあります。手術の時期は症状の有無だけでは決まりません。重症の場合は、症状がなくても心臓への負担が大きくなり、手術を検討したほうがよいことがあります。一方、軽症で安定している場合は、定期的な検査で経過をみます。手術には、ご自身の弁を修復する「弁形成術」と、人工弁に置き換える「弁置換術」があります。心エコーで逆流の程度や心臓の大きさ・働きを確認し、形成術が可能か、手術の負担はどの程度かも含めて、適切な時期を判断します。
重症度別の治療方針の目安
| 重症度 | 症状 | 基本方針 |
|---|---|---|
| 軽症〜中等症 | 無症状 | 定期的な心エコーで経過観察。併存する高血圧や心不全などを治療。 |
| 中等症 | 症状や心機能低下がある | 逆流の重症度と、心機能低下の原因を再評価。中等症のMRだけを理由に手術を決めるわけではない。 |
| 重症の一次性MR | 無症状 | 心機能低下や心臓拡大などを評価し、手術適応を検討。症状が出るまで待つとは限らない。 |
| 重症 | 症状あり(息切れ・動悸・むくみなど) | 一次性MRでは手術を中心に検討。手術リスクや原因・弁の形態に応じてTEERを評価。二次性MRでは、まず心不全の標準治療を最適化。 |
| 急性(重症) | 突然の重症化(腱索断裂・感染性心内膜炎など) | 緊急手術を含む速やかな専門治療が必要となることが多い。 |
薬物療法
薬物療法で弁そのものを修復することはできません。心不全症状がある場合には、利尿薬などで症状を和らげます。一次性と二次性では、薬物療法の位置づけが異なります。
- 心室性の二次性MRに対する治療:左心室の収縮機能が低下した心不全では、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、またはACE阻害薬・ARBのいずれかに、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬などを、血圧や腎機能などに応じて組み合わせます。原因となる心不全の治療で、逆流が軽くなることもあります。適応がある場合は心臓再同期療法(CRT)も検討します[2][7][11]。
- 心房性の二次性MRに対する治療:心房細動や、心臓の収縮力が保たれた心不全などを背景に起こります。むくみや息切れを和らげる治療に加え、必要に応じて心房細動に対する治療などを行います。心室性と同じ薬を一律に使用するわけではありません[2][11]。
- 症状を和らげる薬:利尿薬は、体内の余分な水分を尿として排出し、むくみや息切れを改善します。
外科的治療(心臓手術)
重症の一次性僧帽弁閉鎖不全症における根本治療です。手術のタイミングは、国内外のガイドラインをもとに、症状、心機能、心臓の大きさ、手術リスク、弁形成術の成功可能性などを総合して判断します[2][5][12]。
重症一次性僧帽弁閉鎖不全症の手術適応(ガイドライン比較)
日本のガイドライン(JCS 2020)[5]を基本としつつ、欧米の最新基準も参考に治療方針を決定します。
| ガイドライン | 症候性重症一次性MR | 無症状の手術基準(主要) | 特記事項 |
|---|---|---|---|
| 日本(JCS 2020)[5] | 手術を推奨(LVEF>30%:クラスI。LVEF≦30%では弁膜症チームで検討) | LVEF≦60%、またはLVESD≧40mm(クラスI)。小柄な患者ではLVESDI≧24mm/m²も参考 | 新規心房細動または安静時肺動脈収縮期圧>50mmHgでは手術を考慮(クラスIIa) |
| 欧州(ESC/EACTS 2025)[2] | ハートチームが手術可能と判断した場合、手術を推奨(クラスI) | LVEF≦60%、LVESD≧40mm、またはLVESDI≧20mm/m²(クラスI) | 低手術リスクで耐久性のある形成が期待され、心房細動、安静時肺動脈収縮期圧>50mmHg、左房拡大、中等度以上の二次性三尖弁逆流のうち3項目以上を満たす場合は形成術を推奨(クラスI) |
| 米国(ACC/AHA 2020)[12] | 介入を推奨(クラスI) | LVEF≦60%、またはLVESD≧40mm(クラスI) | 形成成功見込み>95%、予測死亡率<1%の弁膜症センターでは、心機能低下前の形成術が妥当(クラスIIa) |
- 僧帽弁形成術:自身の弁を温存し修復する手術です。重症の一次性MRでは、長期的に良好な結果が期待できる場合に優先されます。逸脱した弁の切除・縫合や、人工の糸(腱索)での補強、拡大した弁輪をリングで縮小するなどの方法があります。自分の弁を残せるため、機械弁のような生涯にわたるワルファリン服用は通常必要ありません。ただし、術後早期や心房細動などを合併する場合には、抗凝固療法が必要になることがあります。
- 僧帽弁置換術:弁の損傷が強く形成術が困難な場合に、人工弁へ交換します。機械弁は耐久性に優れる一方、生涯にわたるワルファリン服用が必要です。生体弁は長期的な抗凝固療法が不要となることが多い一方、耐久性には限界があります。なお、術後早期や心房細動を合併する場合には、生体弁でも抗凝固療法が必要になることがあります。
カテーテル治療(TEER:経皮的僧帽弁接合不全修復術)
胸を切らず、足の付け根からカテーテルを入れ、弁の一部をつかんで合わせることで逆流を減らす治療です。国内ではMitraClip®(マイトラクリップ)やPASCAL Precision(パスカル・プレシジョン)といった機器が使用されています。機器ごとに適応や特徴が異なり、すべての患者さんに適するわけではありません。COAPT試験では、標準薬物療法を十分に行っても症状が残る、一定の条件を満たした二次性MRを伴う心不全患者さんにおいて、MitraClipによるTEERの追加で、5年間の心不全入院と全死亡が減少しました[6]。
2024年のRESHAPE-HF2試験でも、対象となった心不全・機能性MRの患者さんにおいて、TEERの追加による心不全入院の減少や健康状態の改善が報告されました。これらの結果は、一次性や心房性を含むすべてのMRに、そのまま当てはまるものではありません[14]。
TEERの適応は年齢だけでなく、僧帽弁閉鎖不全症の原因、症状、心機能、手術リスク、弁の形態などをハートチームで総合的に判断します[2][5]。
循環器専門医院長 浦 祐次郎から一言▶ 循環器専門医(院長 浦祐次郎)の臨床コメント 僧帽弁閉鎖不全症に対するカテーテル治療(TEER)の経験を活かし、「カテーテル治療が必要か」「外科的弁形成術とどちらが適切か」「いつ介入すべきか」を判断します。一次性か二次性かの分類は、治療方針を大きく左右します。「手術が怖い」「高齢だから手術は無理」とお考えの方も、年齢や体力、合併症、弁の状態を総合的に評価し、適切な治療法をご提案します。
心臓リハビリテーションによる体力・生活機能の回復
病状が安定している方では、状態に合った運動が体力や生活機能の回復に役立ちます。一方、急性心不全や症状が悪化しているときは、安静や治療が優先されます。心臓手術やカテーテル治療後、心不全を合併している場合などには、病状に応じて心臓リハビリテーションを検討します。開始時期や運動の強さは、医師・専門スタッフが個別に判断します。
個々の状態に合わせた運動療法、食事指導、服薬管理などを含む包括的な心臓リハビリによって、運動耐容能、体力、日常生活動作の改善が期待できます[8][13]。
僧帽弁閉鎖不全症で気をつけることと心不全の悪化予防
病気そのものを生活習慣だけで治すことはできませんが、心不全の悪化や関連する心血管疾患を防ぐため、日々の自己管理が重要です。
- 自己管理:毎日の体重測定、確実な服薬、病状に合った適度な運動が基本です。心不全や高血圧がある場合は、医師の指示に応じて減塩(1日6g未満が目安となることがあります)に取り組みます。数日間での急な体重増加やむくみの悪化は、心不全悪化のサインとなるため、早めに医療機関へ相談してください[11]。
- 感染性心内膜炎の予防:歯磨きや定期的な歯科受診で、お口の健康を保つことも大切です。歯科治療を受ける際は、僧帽弁の病気があることや、手術・カテーテル治療の経験を歯科医に伝えてください。人工弁置換後、弁輪リングなどを用いた外科的弁形成術後、感染性心内膜炎の既往がある方などでは、対象となる歯科処置の際に予防的抗菌薬が必要です。自己弁の弁膜症でも考慮する場合があります。TEER後を含め、具体的な対応は歯科医と循環器医に確認してください[3]。
- 定期通院:症状がなくても病状が進行することがあります。一方、長期間安定している方もいます。自己判断で通院を中断せず、定期的な心エコーで逆流の程度や心臓の大きさ・働きを確認し、適切な治療の時期を逃さないことが大切です。
僧帽弁閉鎖不全症についてのよくある質問(FAQ)
軽症で症状がなく、心臓の働きが保たれていれば、散歩などの運動ができることが多いです。ただし、重症度や不整脈の有無によって適した運動は異なります。中等症以上、または症状がある方は主治医に確認してください。息切れ、胸の痛み、めまいがあるときは運動を中止し、医師に相談してください[8]。
特定の食べ物で弁の逆流を治すことはできませんが、塩分のとりすぎや体重増加を防ぐことは、心臓への負担を減らすために大切です。心不全や高血圧がある方は、減塩について主治医と相談しましょう。水分制限は全員に必要なわけではありません[11]。
すべての僧帽弁閉鎖不全症が遺伝するわけではありません。ただし、原因となる僧帽弁逸脱症や一部の結合組織の病気には、家族内でみられるものがあります。ご家族に若い頃から弁膜症がある方や、弁の手術を受けた方がいる場合は、診察時にお伝えください[4]。
基本となる心エコーは、胸に超音波の機器を当てる検査で、通常は強い痛みがなく、外来で受けられます。詳しい評価のため、口から細い器具を入れる経食道心エコーなどが必要になることもあります。その場合は、検査の負担や入院の必要性を事前に説明します。手術やTEERには入院が必要です。
突然の強い息苦しさ、呼吸が苦しく会話できない、意識を失う、強い胸の痛みや冷や汗、ピンク色の泡状の痰が出る場合は、119番で救急車を呼んでください。自分で運転して受診しないでください。徐々に増える息切れやむくみも、次の定期受診まで待たずに相談しましょう。
福岡市で僧帽弁閉鎖不全症の診療なら|うらマイハートクリニックへ
うらマイハートクリニック(福岡市早良区藤崎・原)は、内科・循環器内科・腎臓内科・呼吸器内科を診療し、心臓リハビリテーションにも対応するクリニックです。
院長(浦 祐次郎)は、循環器専門医・総合内科専門医・TAVI実施医/指導医・心血管インターベンション治療学会認定医・SHD心エコー図認証医・心臓リハビリテーション指導士として、九州医療センターで13年間、小倉記念病院で約2年間にわたり、重症心疾患の診療に従事してきました。副院長の浦 雅紀子は腎臓内科医として、福岡山王病院で約5年間、九州医療センターで6年間にわたり、心腎連関を踏まえた包括的な腎臓病診療に従事してきました。
現在はうらマイハートクリニックにて内科医2名体制で円滑な診療に努めています。
当院の検査・治療体制と継続フォロー
当院では、弁膜症の診断から治療方針の決定、術後の継続管理まで、以下の体制で一貫した診療を提供しています。
- SHD心エコー図認証医による精密な弁膜症評価
- 64列CTによる冠動脈・大動脈の精密検査
- 院内即日BNP測定による心臓への負担の迅速評価
- TAVI指導医による専門的なカテーテル治療の適応判断
- 心臓リハビリテーション施設「ReHeart Gym」での術後回復サポート
- 循環器専門医と腎臓内科専門医による心腎連関を踏まえた包括管理
- 治療後のサポート:心臓リハビリ施設「ReHeart Gym」で専門スタッフが体力回復を支援。
- 通いやすい診療体制:診療開始は8時30分から、水曜は20時まで診療。駐車場11台完備。発熱症状のある方の専用入口あり。
心雑音を指摘された方、息切れや夜間の咳でお悩みの方はもちろん、弁置換術・弁形成術・カテーテル治療後の内服管理や心臓リハビリをお探しの方も、福岡市早良区のうらマイハートクリニックへお気軽にご相談ください。
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