慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)|症状・原因・検査・治療を循環器専門医が解説|福岡市早良区
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(まんせいけっせんそくせんせいはいこうけつあつしょう/CTEPH:シーテフ)は、肺の血管に血栓(血の塊)が慢性的に詰まり、肺の血圧が異常に高くなる(肺高血圧症)病気です。急性肺血栓塞栓症の後に見つかることがありますが、過去に血栓症と診断されたことがない方にも起こります。放置すると右心不全をきたし、命に関わることもある疾患で、国から「指定難病(難病88)」に指定されています[1]。
近年、この疾患の診断と治療は大きく進歩しています。日本循環器学会などによる「2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン」[1]や、欧州心臓病学会・欧州呼吸器学会のガイドライン[2]では、手術、カテーテル治療、薬物療法を病状に応じて選択することが勧められています。適切な治療によって、多くの患者さんで症状の改善が期待できます。
本記事では、慢性血栓塞栓性肺高血圧症の症状や原因、最新ガイドラインに基づいた治療法、そして当院での早期発見・フォローアップ体制について詳しく解説します。
【この記事の要点】
- 慢性血栓塞栓性肺高血圧症は、肺の血管に血栓が硬くなって残り、肺の血圧が高くなることで、息切れや疲れやすさが現れる病気です。
- 「以前より階段で息切れする」「肺血栓塞栓症の治療後も息苦しい」は、早めに相談したいサインです。
- 突然の強い息苦しさ、続く強い胸痛、意識を失うなどの症状がある場合は、救急要請が必要です。
- 心エコーや肺血流シンチグラフィ、右心カテーテル検査などで診断し、手術・カテーテル治療・薬で改善を目指します。
この記事を書いた医師
うらマイハートクリニック院長 浦 祐次郎
(循環器専門医・総合内科専門医・TAVI実施医/指導医・心血管インターベンション治療学会認定医・SHD心エコー図認証医・心臓リハビリテーション指導士)
循環器専門医院長 浦 祐次郎から一言▶ 循環器専門医(院長 浦祐次郎)からの一言 「年齢や運動不足のせいだろう」と、息切れを我慢していませんか。以前できていた階段の上り下りや買い物がつらくなったら、その変化をお聞かせください。肺血栓塞栓症の治療後も息苦しさが残る方はもちろん、血栓症といわれたことがない方でも、原因を調べることが大切です。
主な症状|息切れ・疲れやすさ・むくみ
慢性血栓塞栓性肺高血圧症は初期には症状に気づきにくく、病気が進行してから見つかることもあります。以下のような症状がみられます。表は主な症状を整理したもので、正式な重症度分類ではありません。症状だけで病気の重さを判断することはできません[1][2]。
| 症状の現れ方 | 主な症状 | 特徴 |
|---|---|---|
| 動いたときの症状 | 労作時の息切れ、疲れやすさ | 階段や坂道を登る時に息が切れる。加齢や運動不足と勘違いされやすい。 |
| 注意したい症状 | 動悸、胸の痛み、失神 | 少し動いただけで苦しくなる。心臓への負担が増大しているサイン。 |
| 右心不全に伴う症状 | 足のむくみ、腹水、安静時の呼吸困難 | 右心不全が進行し、全身に血液がうっ滞している状態。 |
「以前は普通に登れていた階段で息が切れるようになった」「風邪でもないのに息苦しさが長引く」といった症状がある場合は、年齢のせいと自己判断せず、早めに循環器内科を受診することが重要です。若年層であっても発症する可能性があるため、注意が必要です。
原因とリスク因子
慢性血栓塞栓性肺高血圧症は、肺動脈に詰まった血栓が十分に溶けず、硬い組織として残ることなどによって起こります。海外の前向き研究では、急性肺血栓塞栓症の発症後2年間で約2.3%に慢性血栓塞栓性肺高血圧症が診断されました[3]。
一方、過去に急性肺血栓塞栓症と診断されたことがない方にも起こります。特に日本では、そのような患者さんが少なくありません。血栓が残って病気が進む詳しい仕組みには、まだ分かっていない点もあります[1]。
肺高血圧症が起こる仕組み
人間の心臓は4つの部屋に分かれており、右側の部屋(右心室)から肺へ血液を送り出す血管を「肺動脈」と呼びます。慢性血栓塞栓性肺高血圧症は、この肺動脈に血栓が詰まり、それが溶けずに器質化(硬い組織に変化)することで血管が狭くなったり塞がったりする病気です。
血液の通り道が狭くなるため、心臓は無理をして血液を肺に送り出さなければならず、肺動脈の血圧が異常に上昇します(肺高血圧症)。この状態が長く続くと、右心室に過度な負担がかかり、「右心不全」という命に関わる状態に陥ることがあります[1][2]。
慢性血栓塞栓性肺高血圧症を発症しやすい危険因子
日本の2025年版ガイドラインでは、以下のような要因が慢性血栓塞栓性肺高血圧症の発症に関連するとされています[1]。
- 急性肺血栓塞栓症の既往:特に繰り返し発症した場合や、血栓の量が多い場合など。
- 血栓ができやすくなる病気:抗リン脂質抗体症候群などが関連します。
- その他の要因:脾臓摘出の既往、高用量の甲状腺ホルモン補充療法、悪性腫瘍(がん)、ペースメーカーなどの血管内機器、特に感染を伴う場合など。
静脈に血栓ができる原因については、当院の「深部静脈血栓症」の記事もご参照ください。
検査と診断
慢性血栓塞栓性肺高血圧症の診断には、肺の血管の詰まり具合と、心臓への負担(肺高血圧)の程度を正確に評価する必要があります。息切れの原因となるほかの疾患(心不全、慢性閉塞性肺疾患など)を調べることも重要です[1][2]。
- 心エコー(超音波)検査:心臓の動きや大きさ、肺動脈の圧力を推定します。右心室の拡大や動きの低下など、心臓への負担を確認する、身体への負担が少ない検査です。
- 血液検査: BNPやNT-proBNPを測定し、心臓への負担の程度を調べます。
- 肺換気・血流シンチグラフィ:肺の空気の入り方と血液の流れを画像で調べます。血液が流れにくい部分を確認する、CTEPHの診断に重要な検査です。
- 造影CT検査:肺動脈内に残った血栓の位置や、血管の狭まりなどを確認します。CTだけでは分かりにくい病変もあるため、肺血流シンチグラフィなどと組み合わせて判断します。
- 右心カテーテル検査:肺高血圧症の確定診断に必要な検査です。局所麻酔をして静脈から細い管(カテーテル)を入れ、心臓から肺動脈まで進めて、直接血圧などを測定します[1][2][9]。
慢性血栓塞栓性肺疾患(CTEPD)との関係
肺動脈に残った慢性的な血栓によって息切れなどが起こる病気を、安静時の肺高血圧症の有無にかかわらず「慢性血栓塞栓性肺疾患(CTEPD)」と呼びます。そのうち、肺高血圧症を伴うものが慢性血栓塞栓性肺高血圧症です。肺高血圧症がなくても症状がある場合は、専門施設で検査や治療の必要性を判断します[1][2]。
最新ガイドラインに基づく治療法
慢性血栓塞栓性肺高血圧症の治療は過去10年で大きく進歩しました。現在は、以下の3つの治療法を病状に応じて選択し、必要に応じて組み合わせます[1][2]。血栓の位置や全身の状態、患者さんの希望などを踏まえ、専門チームが治療方針を判断します[6]。
1. 外科的治療:肺動脈血栓内膜摘除術(PEA)
胸を開き、人工心肺装置を用いて、肺動脈の内側の膜とともに硬くなった血栓を取り除く手術です。血栓の位置や全身の状態から手術が適していると判断された場合に、第一に検討する治療です。根治を目指せる治療ですが、肺高血圧が残る場合もあるため、治療後も抗凝固薬と定期的な診察が必要です[1][2]。
2. カテーテル治療:バルーン肺動脈形成術(BPA)
肺動脈血栓内膜摘除術(PEA)が難しい場合や、手術後にも肺高血圧が残る場合などに検討する治療です。通常は足の付け根や首の静脈から細い管(カテーテル)を入れ、先端の風船(バルーン)を膨らませて、血栓で狭くなった血管を押し広げます[1][2]。
日本でも技術の改良が進められてきた治療法です。国際的な登録研究でも、外科手術やバルーン肺動脈形成術を受けた患者さんの良好な長期経過が報告されています[4]。
3. 薬物療法
- 抗凝固薬:新たな血栓ができるのを防ぐため、原則として生涯にわたり継続します。ワルファリンのほか、病状に応じて直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)を選択する場合もあります。抗リン脂質抗体症候群を合併している場合は、原則としてワルファリンを使用します[1][2]。
- 肺血管拡張薬:肺の血管を広げて血圧を下げる薬です。手術が難しい場合や、治療後に肺高血圧が残る場合などに使用します。病状に応じて、カテーテル治療の前から使用することもあります。日本ではリオシグアト(アデムパス®)とセレキシパグ(ウプトラビ®)がCTEPHに対して保険適用となっています[1]。
循環器専門医院長 浦 祐次郎から一言▶ 循環器専門医(院長 浦祐次郎)からの一言 「難病と聞くと、治療しても良くならないのでは」と不安になるかもしれません。慢性血栓塞栓性肺高血圧症は、手術やカテーテル治療などによって息切れの改善が期待できる病気です。専門施設でご自身に合った治療を検討し、治療後も薬の管理や無理のない運動を続けられるよう、一緒に取り組んでいきましょう。
予防と早期発見のために
慢性血栓塞栓性肺高血圧症を完全に予防することは困難ですが、深部静脈血栓症や急性肺血栓塞栓症を予防し、発症した場合は医師の指示に沿って治療を続けることが大切です[1][5]。
米国の2026年版ガイドラインでは、急性肺血栓塞栓症を経験した患者さんについて、少なくとも1年間は診察のたびに、息切れが残っていないか、以前と同じように動けるかを確認することが推奨されています。症状や検査所見に応じて、心エコーなどの詳しい検査を行います[5]。
急性肺血栓塞栓症の治療を受けた後も、「もう治ったから」と自己判断で通院や薬をやめず、定期的に症状や体調の変化を確認し、必要な検査を受けることが、慢性血栓塞栓性肺高血圧症の早期発見・早期治療につながります。
よくあるご質問(FAQ)
慢性血栓塞栓性肺高血圧症は、一般に親から子へ直接遺伝する病気ではありません。ただし、静脈に血栓ができやすい体質の一部は遺伝します。ご家族に若い年齢で血栓症を起こした方がいる場合は、医師にお伝えください。検査が必要かは、ご本人やご家族の病歴を踏まえて判断します[1]。
突然の強い息苦しさ、続く強い胸痛、意識を失う、呼びかけに反応しないといった場合は、救急要請してください。いつもの息切れとは違う急な悪化には、早急な対応が必要です。自分で運転して受診することは避けてください[8]。
福岡市で慢性血栓塞栓性肺高血圧症の診療なら|うらマイハートクリニックの特徴
うらマイハートクリニック(福岡市早良区藤崎・原)は、内科・循環器内科・腎臓内科・呼吸器内科を診療し、心臓リハビリテーションにも対応するクリニックです。
院長(浦 祐次郎)は、循環器専門医・総合内科専門医・心血管インターベンション治療学会認定医・TAVI実施医/指導医・SHD心エコー図認証医・心臓リハビリテーション指導士として、九州医療センターで13年間、小倉記念病院で1年半にわたり、重症心疾患の診療に従事してきました。副院長の浦 雅紀子は腎臓内科医として、福岡山王病院で約5年間、九州医療センターで6年間にわたり、心腎連関を踏まえた包括的な腎臓病診療に従事してきました。
現在はうらマイハートクリニックにて内科医2名体制で円滑な診療に努めています。
- 院内での迅速な検査体制:BNPなど含む当日結果のわかる多様な血液検査、心臓を含む各種エコー検査、総合病院レベルの64列CT(冠動脈CT含む)に対応。
- 治療後のサポート:心臓リハビリ施設「ReHeart Gym」で専門スタッフが体力回復・心不全の悪化予防を支援。
- 通いやすい診療体制:診療開始は8時30分から、水曜は20時まで診療。駐車場11台完備。発熱症状のある方の専用入口あり。
「息切れの原因がわからない」「治療後、どこまで運動してよいか不安」といったお悩みもお聞かせください。症状の経過やこれまでの検査結果を確認し、必要な検査や専門施設との連携、治療後の体調管理につなげます。
息切れや疲れやすさが続く方、肺血栓塞栓症の治療後も息苦しさが残る方は、福岡市早良区のうらマイハートクリニックまでお気軽にご相談ください。
この症状でお悩みですか?
当院の専門外来では最適な治療プランをご提案しております。
参考文献
[8] 総務省消防庁. 救急車利用リーフレット.
https://www.fdma.go.jp/publication/portal/post9.html